やさしさとともにある瞑想

タラ・ブラッチと “自己への思いやり” に触れる時間
ふとしたとき、自分にかける言葉が冷たくなっていることに気づくことがあります。
「なんでこんなこともできないの?」「また同じ失敗をしてしまった」。
だれよりも自分自身に厳しくしているのは、もしかしたら自分なのかもしれません。
今回ご紹介するのは、タラ・ブラッチ(Tara Brach) というアメリカの瞑想教師が伝える、
“自己への思いやり”に満ちた瞑想法です。
「変わること」よりも、「いまここにある心に寄り添うこと」。
そんな静かな実践が、あなたの内側にあるやさしさと、そっと再会させてくれるかもしれません。
タラ・ブラッチとは
慈悲とマインドフルネスをつなぐ存在
タラ・ブラッチは、臨床心理士としての顔を持ちながら、仏教瞑想の実践と教えを30年以上にわたって続けている瞑想家です。
彼女の著書『ラディカル・アクセプタンス』『Trusting the Gold』は、多くの人の心をあたたかく解きほぐしてきました。
彼女の瞑想の中心にあるのは、「ありのままの自分を、思いやりをもって迎える」ということ。
自己批判をやめ、過去も今も含めて “そのままの自分” を受け容れることから、癒しと変容がはじまる――
それが、彼女の伝えるマインドフルネスの核です。
RAIN瞑想とは
感情をやさしく見つめる、4つのステップ
タラ・ブラッチの代表的な実践のひとつに、RAIN と呼ばれる瞑想法があります。
RAIN は次の4つのステップの頭文字をとったものです。
・R(Recognize):いま自分の内側に起きていることに気づく
・A(Allow):それを「そのままでいい」と許す
・I(Investigate):優しい関心をもって丁寧に観察する
・N(Nurture):思いやりをもって自分をなぐさめる
たとえば、不安を感じたとき。
「いま、不安があるな(R)」「いていいよ(A)」「何がそんなに怖いのかな?(I)」と問いかけ、
最後に「ここにいるよ、大丈夫」と胸に手をあて、自分をそっとなぐさめる(N)。
この一連のプロセスが、RAINの瞑想です。
タラ・ブラッチ式 RAIN瞑想のやり方
ここでは、日々に取り入れやすい 5〜10分のRAIN瞑想 の流れをご紹介します。
1. 静かな場所で目を閉じ、数回深く呼吸をする
2. 「いま、自分の中にどんな感情があるか(R)」に気づく
3. それを「そのままでいい」と許す(A)
4. 体のどこにその感情があるかを感じてみる(I)
5. 「あなたは大丈夫」「ここにいるよ」と自分に語りかける(N)
うまくできなくても大丈夫。
大切なのは「正しくやること」ではなく、「やさしさとともにあること」です。
科学と心のつながり
“自分を責めない” という神経系のケア
心理学の研究でも、自己への思いやり(セルフ・コンパッション)はストレスを和らげ、心の回復力(レジリエンス)を高めるといわれています。
マインドフルネスに「慈しみ」が加わることで、扁桃体(恐れや怒りに関係する脳の部位)の過剰な反応が落ち着き、オキシトシン(愛情ホルモン)の分泌が高まるという報告もあります。
つまり、自分を責めないことは、甘えではなく脳と神経をいたわるケアの一つ。
RAIN瞑想のような実践は、心だけでなく身体にも穏やかな癒しを届けてくれるのです。
やさしさが心身を整えるという理解は、じつは現代に始まったものではありません。
昔の人たちも、もっと静かで感性的な方法で、それを表現してきました。
昔の人も「自分を抱きしめる」ように生きていた?
和歌や物語に触れていると、昔の人たちもまた、
時に自分をいたわり、自然とともにある中で心を整えていたのだろうなと感じることがあります。
たとえばこんな和歌があります。
【かくばかり 思ひ乱るる 我なれば いかにぞ人を 思ひそめてし】(後撰和歌集・伊勢)
訳:これほどまでに乱れる心を抱えている私なのに、どうしてまた誰かを恋しく思ったりしてしまったのだろうか。
この「乱るる我なれば」という一節には、ただの嘆き以上のものが込められているように思います。
自分の乱れ、弱さ、未熟さ――それらを責めるでもなく、否定するでもなく、
「そんな私が、ここにいる」ということを、そっと見つめているような静かなまなざし。
まさにそれは、タラ・ブラッチの瞑想が教えてくれる「ラディカル・アクセプタンス(徹底的受容)」の精神と響き合っています。
心が揺れていることを、“直すべき問題”として扱うのではなく、
“そのままで大丈夫”と優しく抱きしめてあげることで、私たちはようやく癒しの入口に立つのかもしれません。
千年前の歌人と、現代の瞑想家が出会うような瞬間。
その静けさの中に、深いやさしさの余韻が広がっていきます。
瞑想で、自分を自分の味方にしよう
今回は、タラ・ブラッチの瞑想をご紹介しました。
「自分を変えたい」と思うときほど、「いまの自分に寄り添う」ことが、結果的に一番の近道になることもあります。
まずは夜寝る前、静かな時間に3分でもいい。
自分の胸にそっと手を当て、「あなたはそのままで大丈夫」とやさしく語りかけてみてください。
きっと、明日の朝の呼吸が、少しだけ軽くなっているはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。