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瞑想とマインドフルネス

マインドフルネス瞑想と脳の仕組み

マインドフルネス瞑想の効果と脳で起こる仕組み

マインドフルネスとは、簡単にいうと「今、この瞬間」ありのままの自分の心と体に意識を向けて集中している状態を意味します。

近年では、Appleを始め、Googleやゴールドマン・サックスなど様々な企業が、研修にマインドフルネスの方法を取り入れています。

脳科学の進歩によって、継続したマインドフルネスの実践で、集中力や自己認識力が向上したり、自分の感情を上手にコントロールする力が高まったりすることが判明しているのです。マインドフルネス瞑想の実践により効果が得られると分かっているけど、脳内で何が起きているのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

今回は、マインドフルネスの効果と脳に与える影響を詳しく解説します。

マインドフルネスとは?

まずはマインドフルネスの語源をみていきましょう。

マインドフルネスとは、古代インドの言語であるパーリ語の仏教用語である「サティ(sati)」を英訳したものです。(パーリ語は、現在は使われていませんが、お釈迦様が約2500年前に話されていた言葉です。)

「サティ」を日本語では「気づき」と訳し、意味は①言葉以前の気づき、②ありのままの注意、③思い起こすこと、と主に3つあると考えられています。

マインドフルネス学会において、マインドフルネスはこのように定義されています。

「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」

私たちは、無意識のうちに過去への後悔や、未来への不安などに意識を向けてしまいがちです。後悔や不安などについて繰り返し考えていると、それらは心と体の中でどんどん大きくなっていき、私たちを悩ませ苦しめます。

「今、この瞬間」目の前で起こっている現実を意識し「ただ観る」ことにより、後悔、不安や怒りなどのネガティブな感情を受け入れて、精神的な不調を改善するのに役立たせることができるのです。

「ただ観る」とは?

「ただ観る」とは、五感を総動員するということです。

・見る(視覚)
・聴く(聴覚)
・嗅ぐ(嗅覚)
・味わう(味覚)
・触れる(触覚)

五感で感じることに意識を向け、良い、悪いなどの判断をしたり、自分の解釈を加えたりせずにいれば、「今、この瞬間」のありのままの世界が観えてくるのです。

マインドフルネスストレス低減法

仏教と関わりが深いマインドフルネスですが、その効果を医療の分野で役に立つのではないかと考え科学的に実証を重ねていったのが、アメリカマサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン博士です。

1979年に「マインドフルネス・ストレス低減法(マインドフルネス瞑想法)」を発表します。うつ病の改善や疼痛が和らぐなどの効果が脳科学の分野で確かに認められ、広く世界に知られることとなりました。

また、心理学の分野においては、自己認識力、衝動の抑制等に良い影響を与えると確認されています。

マインドフルネス認知行動療法(Mindfulness Based Cognitive Therapy)

マインドフルネスストレス認知行動療法とは、マインドフルネスストレス低減法と認知行動療法を組み合わせたものです。

うつ病を繰り返す患者さんに対して、再発防止の効果があると実証されており、心に病を抱える方への治療方法としても活用されています。

また、ビジネスの世界においても、ストレスをコントロールしたり、仕事の生産性を向上させたりなどの目的で活用されているのです。

マインドフルネス瞑想の効果

マインドフルネス瞑想が私たちのもたらしてくれる効果は以下の通りです。

・集中力が向上する
・自己認識力が高まり、感情をコントロールできるようになる

それぞれ確認していきましょう。

集中力が向上する

何かに意識を向けると、前頭前皮質という脳の部位が活性化するといわれています。余計なことを考えない状態になるため、集中力を高めるのです。

ハーバード大学の心理学者であるマシュー・キリングワースさんの研究結果によると、例えば仕事中ほかの物事に注意が逸れ、違うことを考えている時間は47%もあるそうです。

しかし、「また他のことを考えてしまった」とその都度嘆く必要はありません。それもすべて、ありのままに受け入れましょう。

集中➡注意が逸れたことに気が付く➡また集中、このように繰り返し訓練を行っていけば、他の物事を考えている時間も短くなります。感情に流されずに冷静な判断ができるようになるでしょう。

前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)とは?

前頭前皮質とは、脳の前頭前野に含まれる領域で、以下のような働きがあります。

・記憶や感情の制御
・行動の抑制
・想像力を働かせる
・大事なことに集中する

自己認識力が高まる

自己認識力とは、「自分自身の内面を深く追求し、自分がどのような状況や精神状態にあるかを自覚すること」また、「自分自身の性格、能力、思考パターン、感情などを明確にし、理解する能力」とされています。

自己認識力と関わっている脳の部位は、島皮質(とうひしつ)です。

自己認識力の高い人というのは、例えば自分が怒りを感じた時に「私は今怒っているんだ」と客観的に認識して、その感情をパッと意識的に捨て去ることができます。

反対に、自己認識力が低い人は、怒りの感情に引っ張られてしまいます。その後も些細なことでイライラしたりと不快感が続く人もいるでしょう。

マインドフルネスを継続すると、自分の思考や感情を客観的に捉えられるようになります。

結果的に、腹が立ったり不快に感じたりする出来事があっても、その感情に吸い込まれずに常に安定した感情をもって、日々の暮らしが送れるようになるのです。

島皮質とは?

島皮質とは、大脳の側面側の奥にある領域で、以下のような働きを担当しています。

・社会的感情
・道徳的直観
・共感
・痛み
・ユーモア
・他者の表情への反応
・食の好み

マインドフルネス瞑想による脳の仕組み

マインドフルネスは、どのような仕組みになっているのか早速見ていきましょう。

脳の灰白質(かいはくしつ)を増加させる

ハーバード大学とマサチューセッツ大学医学部の研究者の方々が、マインドフルネス瞑想が脳にどのような影響を与えるのかを調査しました。

すると、マインドフルネスストレス低減法プログラムに8週間参加した人々の灰白質が増加したという結果が確認されたそうです。

これは、マインドフルネス低減法の脳科学的な効果が証明されたということです。

灰白質とは?

灰白質とは、脳と脊髄からなる中枢神経系組織のなかで、ニューロン(神経細胞)の細胞体が集まっている灰白色をした領域をいいます。灰白質には、運動神経、反射神経、感覚神経、記憶や思考力などの、あらゆる機能を管理するニューロンが存在しているといわれています。

年齢を重ねると、灰白質はだんだんと密度が小さくなっていくといわれています。情報処理に時間がかかったり、情報を伝えるスピードが遅くなったりしていくのはこのためです。

海馬(かいば)の灰白質の増加はストレス低減や感情の安定などをもたらす

記憶を管理している海馬は、感情の調整に関わっている部分でもあります。

うつ病やPTSDなどの精神的な問題を抱えている方々は、海馬が萎縮し、体積が減少しているといわれています。そのため、海馬の灰白質が増加するということは、ストレスが抑制されたり、感情が安定しやすくなったりするということを示しています。

海馬とは?

海馬とは、記憶を管理している脳の部位です。脳に記憶を保ち続けるための役割を果たしています。小指ほどの大きさで、タツノオトシゴのような形をしており、左右に一対ずつあります。

とくに短期記憶に関係しており、新しい記憶はまず海馬に保存されます。日常的に使う記憶は、海馬で一時的に保管されたあと大脳皮質に移動し、長期的な記憶として大事な情報が保管されるといわれているそうです。

偏桃体の灰白質減少はストレスへの過剰反応を減らす

偏桃体とは、脳の左右にある神経細胞の集まりで、目の奥あたりに位置しています。感情の処理、直観力やストレス反応に重要な役割を果たしているのです。

主に、恐怖・緊張・不安・怒りなどのネガティブな感情に関わりがあります。

うつ病やPTSDなどの心の病が原因で過度の不安・恐怖を感じている方々は、偏桃体の活動が盛んであるがゆえに、ストレスにも敏感に反応しやすくなっているといわれています。

実は、マインドフルネスストレス低減法の実践により、偏桃体の灰白質を減少させるという研究結果も報告されています。

偏桃体の灰白質が減少することによって、偏桃体の活動が抑えられるという点から、ストレスへ過剰に反応しにくくなるのです。

灰白質を増やすための瞑想方法

研究が続いているマインドフルネスストレス低減法のプログラムには、「ボディスキャン瞑想」という瞑想方法が取り入れられています。

ボディスキャン瞑想

ボディスキャン瞑想は、以下のような効果があるといわれています。

・集中力を高める
・注意力を鋭くする
・呼吸を落ち着かせる

ボディスキャンとは、意識を向けてじっくりとよく観察することです。マインドフルネスストレス低減法を開発したジョン・カバット・ジン博士によると、自分の体のそれぞれの部位に「ハロー」と挨拶をしていくように、ゆっくりと意識を移動させていきます。

30〜45分じっくりと時間をかけて、心と体の緊張や違和感を解きほぐしていくのです。

ボディスキャン瞑想方法

① 仰向けになる。脚は適度に開き伸ばす。腕は体に沿って自然に伸ばし、手のひらは天井に向ける。

② 左のつま先からスキャン開始。ただ単純に、つま先の感覚を感じる。
(冷たいか、あたたかいか、力が入っているか、など)

つま先に呼吸を送るようなイメージで、息をゆっくり吸ったり吐いたりを繰り返す。意識をつま先から踵へ移動させるのと同じタイミングで、呼吸も踵へ送る。

③ 左の踵➡土踏まず➡足首➡ふくらはぎ➡膝➡太ももへと順番に意識と呼吸を移動させていく。終わったら、今度は右脚も同様にスキャンしていく。

④ 両脚が終わったら次に進む。

 骨盤➡腰➡下腹➡胸➡肩➡腕➡手➡首、最後に頭部へと意識と呼吸を移動させる。

⑤ 体のすべてのスキャンが終わったら、それぞれの部位の関節を観察する。(指が手とどのように繋がっているか、その手がどのように腕と繋がっているか、など)

季節によっても、変わってくる空気の温度、触れる感覚にも意識を向ける。

まとめ

今回は、マインドフルネスが私たちの心と体に与える効果と、脳の仕組みについて解説しました。

マインドフルネス瞑想による脳の仕組みは以下の通りです。

・脳の灰白質の増加
・海馬の灰白質の増加はストレス低減や感情を安定させる
・偏桃体の灰白質の減少によりストレスへの過剰反応が減る

マインドフルネス瞑想の実践により、脳内がどのような仕組みになっているのかを知ることで、さらに、マインドフルネス瞑想の重要性を感じずにはいられませんでした。

ボディスキャン瞑想については、夜眠る前、お布団で横になった時に少し実践してみるのはいかがでしょうか。呼吸が落ち着く効果もあるため、穏やかな気持ちで眠りにつけるかもしれません。

最後までご覧いただきましてありがとうございました。

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