合掌

English

瞑想とマインドフルネス

「空」の教えと瞑想で心を整える

仏教における空の思想とマインドフルネス瞑想

空の思想は、仏教においてもっとも重要な教えのひとつであるとされています。空の思想を理解し日々の暮らしに取り入れることは、私たちの心に豊かさや穏やかさをもたらす手段となります。

また、仏教とも関わりが深いマインドフルネス瞑想は、自律神経を安定させたり集中力が養われたりなど、様々な効果があると分かっています。

今回は、仏教における空の思想とマインドフルネス瞑想についてご紹介します。

「空」とは

「空」は、サンスクリット語で「シューンヤ」を訳した言葉で「無」とも訳されます。「空」という言葉には、有と無、肯定と否定などの両方の意味を持ちますが、一般的には「から・むなしい」などの意味で認識している方は多いのではないでしょうか。

大般若波羅蜜多経では、あらゆる物事は「空」であり、実体がないと説かれています。

物事は永遠に不変ではなく、あらゆる存在は一時的なものであり、常に変わるものだということです。迷いや苦しみなどの煩悩も、その存在が「空」であるならば、お釈迦さまの教えのままに「空」と考え、何にもとらわれないでよいのではないかという思想です。

私たちの感情や思考、自我と考えるものにも当てはまります。

空の思想は、自己と世界を切り離して考えるのではなく、すべての現象はお互いに関連、影響し合っていて、それ自体で独立した存在ではない、という視点を提供しています。

「この1枚の紙のなかに雲が浮かんでいる」

これは、ベトナム出身の禅僧で、マインドフルネスや平和に関する力強い教えと著書で有名なティク・ナット・ハンの言葉です。

仏教では「此あるがゆえに彼あり、彼生ずるがゆえに此生ず」と説かれます。世の中のすべての存在は実体としてあるものではなく、相互の関わりのなかで生ずる、という意味です。

ティク・ナット・ハンは、これを「この1枚の紙のなかに雲が浮かんでいる」と表現しました。

「この1枚の紙の存在は、雲の存在に依存している。なぜなら、雲なしには水がなく、水なしには樹木は育たず、樹木なしには紙はできない。そのうえ、紙を作るには木を伐採するひとが必要で、森や人間が育つには太陽の光が必要。その他のすべてがこの1枚の紙のなかにあるといえよう。」

そして、「この紙を見ている私たち自身もこの紙の中にあるのだから、私と関係のないものは何ひとつない。」と。

目に見えている部分の命だけではなく、見えないところにもあるすべての命への連なりに気づき、思いをはせることができるのです。

空の思想を理解することで得られるもの

空の思想を理解することは、私たちが普段から見ている世界がどんな風に現れて、消えていくのかを深く感じ取ることに繋がります。

みずからの存在が物質的なものに囚われていないこと、そして「あらゆる物事は変化し続ける」と理解すると、不安や恐怖などの感情に対処する際にも力を発揮できるようになるのです。

また、人間関係においても空の視点は有効です。行動や意見などがそのひと自身の本質から発せられているのではなく、そのひとの生い立ち、環境や社会的な影響によっても形づくられていると理解ができれば、相手への共感が深まるといいます。

毎日の暮らしのなかで、あらゆる現象(私たちに湧き起こる感情や思考なども含めて)は過ぎ去ってゆくものであると捉えられるようになると、さまざまな物事に固執せず、先入観や偏見を持たずに柔軟な心で生きられるようになるのです。

物事が起こったときに、その瞬間の感情や反応を観察する練習は、仏教でのマインドフルネス(正念、サティ)と呼ばれる瞑想の一形態に該当すると考えられています。

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは、仏教用語「サティ(sati)」を英訳したものです。日本語では「念」や「気づき」と訳します。「サティ」には、主に3つの意味があると考えられています。

【①言葉以前の気づき ②ありのままの注意 ③思い起こすこと】

仏教においての「正念」に当たり、心をひとつにして今ここにとまる力をいいます。

「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態でただ観ること。」

「不快な感情を喜びや感謝に変えて幸福のエネルギーを育てること。」

私たちは、無意識に過去や未来に意識を向けてしまう傾向があり、今、この瞬間目の前の対象に意識を向けられていない状態であることがとても多いです。

過ぎた過去を思って悩まない、まだ来ていない未来を考えて悩まないことです。

たとえば、夜空の煌めく星たちを見ていても頭の中で何か別の考え事をしていたり、美しい夕焼けを見ていても、翌日の仕事のことを考えて憂うつになったりしていては、今この瞬間に心と体は別々になっています。

目の前にある「今、この瞬間」を深く生きることが大切です。

自分の心や体を観察し、内側から湧き起こっている感情や、感覚器官を通して入ってくる情報に意識を向けて気づくための方法として、古典的な仏教瞑想法のひとつであるヴィパッサナー瞑想があります。

自分の内面の動きをより一層明確に理解し、考えなしに反応するのではなく、きちんと向き合って応答する方法を学びます。

精神を安らかで穏やかな状態へと導き、日常生活での自己認識を高めるのに役立つとされています。

ヴィパッサナー瞑想

仏教における瞑想は、苦しみの原因である憎しみ、怒りや欲などの煩悩を完全になくし、穏やかな心を手に入れるためであるといわれています。

パーリ語であるヴィパッサナー(vipassana)の「ヴィ」とは、「ありのままに・明瞭に・客観的に」、「パッサナー」とは、「観察する・心の目で見る・観る」という意味を表します。

瞬く間に起き続ける思い込みやしがらみを理解できるヴィパッサナー瞑想は、「気づきの瞑想」ともいえます。誰もが簡単に実践できる心のトレーニングです。

いつ、どんな時に、何をしていても、「今、この瞬間」の日常や、自分の感情と思考に客観的に気づき観察していくことです。

感情や思考を観察する瞑想は、精神活動が自己の本質ではなく、外部からの刺激や体の内側の化学反応などによって引き起こされる一時的な現象であると理解する手助けになり得ます。

理想の自分、理想の未来を想像して、そこに向かって頑張るのではなく、確実に「今、この瞬間の自分」を深く掘り下げていこうというのがヴィパッサナー瞑想の実践方法です。

基本は、以下の3つあると考えられています。

1. スローモーション
身体をできるだけゆっくりなスピードで動かすこと。

2. 実況中継
今自分がしていることを、頭の中でシンプルな言葉で確認すること。絶え間なく行うことで雑念が消え、集中力が生まれる。

3. 身体の感覚を感じる
歩いたり、止まったりする度に変わる身体の感覚を感じ取ること。

毎日の暮らしに取り入れられる

予期しない物事が起きた時、その瞬間自分に湧き起こった感情、思考や反応を観察する練習は、毎日の暮らしの中で取り入れることができます。

たとえば、いつも通勤に利用しているバスが遅れたとき、自分の感情の動きに注目してみるのです。「大事な会議に間に合わない」「一体何の渋滞なんだ」などと、焦りやイライラなどの感情がどのように始まったのか、そして、どのように消えていくのかを観察します。

その様子を客観的に静かに見守るということは、空の教えに沿った心の持ち方が養われるといいます。

また、この練習を継続して行うことで自分の心の動きをとても良い感じで掴めるようになり、イライラしなくなります。自分の心がどのように動いているかが明白になり、無意識のうちに繰り返している行動パターンにブレーキをかけられるようになります。

良い悪い、好き嫌いといった評価をする間もなく、ありのままに受け止めることが大切です。

具体的なヴィパッサナー瞑想のやり方

いつ、どんな時に、何をしていても、「今、この瞬間」の日常や、自分の感情と思考に客観的に気づき観察するヴィパッサナー瞑想を継続して行うと、自分の心を洞察する力が得られ、心を成長させる効果があると考えられています。

ヴィパッサナー瞑想のやり方を一緒に見ていきましょう。

①座禅を組むような決まった姿勢である必要はありません。ポイントは、背筋をピンと伸ばし、重心が真っすぐに座骨に落ちるイメージで安定した姿勢を保つことです。
片足だけを太腿に乗せる半跏趺座(はんかふざ)や、胡坐など、自分が安定して座れる組み方が決まったら、両手をそれぞれ両膝の上に乗せ、手の平を上に向けましょう。

②腕や肩を脱力し、無理のない姿勢で楽にして呼吸を整えます。(呼吸瞑想)
鼻から吸って気管を通り、肺に送られる空気をイメージしてみましょう。また、呼吸とともにお腹が膨らみ縮んだり、肩がゆっくりと上下したりする体の変化をただひたすらに感じます。「今、息を吸っている」、「今、息を吐いている」という感覚をとらえてみましょう。
最も大切にしてほしいポイントは、呼吸をコントロールしないことです。

③瞑想をしている間、注意力が散漫になることがあります。
まずは、「自分の心や思考はあちらこちらに動き続けるものだ」と、自分自身で気が付くことがとても大切です。雑念がでてきても、「今自分は、こんなことを考えた」と気が付き、また瞑想に戻るという繰り返しです。
集中できない自分を責めない、浮かんできた思考や心の動きを追いかけないことが重要です。意識が逸れたとしても、静かに呼吸に意識を戻しましょう。

空の思想を理解し瞑想の実践で穏やかな心を手に入れよう

今回は、仏教における空の思想とマインドフルネス瞑想についてご紹介しました。

空の思想は、自己と世界を切り離して考えるのではなく、すべての現象はお互いに関連、影響し合っていて、それ自体で独立した存在ではない、という考えがあります。

「あらゆる物事は変化し続ける」と理解することで、何か物事が起きた時に湧き起こる感情(怒り、悲しみ、イライラ、不安など)や、思考などは一時的なものであり、とらわれる必要はないという視点を私たちに与えてくれているのです。

この視点を持つことで、さまざまな物事に固執せず、先入観や偏見を持たずに柔軟な心で生きられるようになるのです。

さらに、その瞬間の感情や反応を観察する練習は、仏教でのマインドフルネス(正念、サティ)と呼ばれる瞑想の一形態に該当すると考えられています。

自分の心や体を観察し、内側から湧き起こっている感情や、感覚器官を通して入ってくる情報に意識を向けて気づくための方法として、古典的な仏教瞑想法のひとつであるヴィパッサナー瞑想があります。

生きていると、過去のことを思い出して後悔したり、深く落ち込んだりすることがあります。また、やらなくてはいけないことに追われてイライラしたり、八つ当たりして後悔したり、心が散漫になったとき、いつでも自分の呼吸に戻って、心を穏やかに落ち着けましょう。

呼吸が軽やかになると、どんなときでも安らかで穏やかな心に戻ることができるのではないでしょうか。一歩ずつ、少しずつ、自分自身の心の成長も感じられるようになるでしょう。

最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。

Back to list